シャネル財布
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null「どう言えばいいんだ?」 「何も言わなくていいさ。言う気もないし、言えないんだってことがわかったからな」 「どうしろってんだ?」 「死ぬんだよ。死んでもらう」 「くそ! おれは塾頭には逆《さか》らえなかったんだ。言われてやっただけなんだ」 「堀越も死ぬよ。もうじきだ」  長峰は、中川のパジャマの襟を放し、ポケットからネクタイを出した。ナイフは首に当てられたままだった。ネクタイが中川の首の下をくぐった。中川の全身のふるえがはげしくなった。長峰は片手で中川の首にネクタイを巻きつけた。中川の口から、ことばにならない呻き声が洩れた。眼がいっぺんに落ちくぼんだように見えた。 「人を呼ぶか? 呼んでもいいぞ。おれもおまえも人殺し同士だ。どっちを選ぶ? おれに殺されるのと、警察に捕まるのと」  長峰は言った。中川は何も言わなかった。歯の根が合わなくなっていた。歯がぶつかり合って小さな音を立てた。尿の匂いが漂《ただよ》った。中川は失禁したようすだった。 「堀越はどこにいるんだ?」 「日野のマンションか、羽村町の塾か、どっちかにいるはずだ」  中川は答えた。ようやく聴きとれるほど、その声は小さく、乱れていた。 「塾にはいつも何人が寝泊りしてるんだ?」 「たいてい、七、八人はいる」 「そいつらは全部、今度の一件で堀越がやったことを知ってるんだな?」 「全部じゃない。知ってるのは二人いいや三人だ」 「そいつらの名前を言え」 「大橋豊《おおはしゆたか》。田村誠一。山野修《やまのおさむ》……」