ロレックス偽物
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null「おかえりなさい、みーさん。先程《さきほど》の奇声《きせい》はみーさんのでしたか?」  鞄《かばん》を取って席を立ちながら、奈月さんがごく自然に言葉をかけてくる。僕は有耶無耶《うやむや》に「ええ」だの言いつつ、マユの方へ近寄る。マユも、今度は失敗せずベッド端《はし》まで移動し、空いた隣《となり》を叩《たた》いて誘《さそ》ってくる。相当に寝《ね》起きらしいのは、その態度で伝わってきた。 「では失礼します。それとこれ、差し上げますので」  奈月《なつき》さんの手にあった、絵本を手渡《わた》される。  うりこひめと、あまのじゃく。  表紙には平仮名で、そう明記されていた。  奈月さんは僕とすれ違《ちが》う際に「心配しないで」と囁《ささや》いて、意地悪そうな笑い方をして部屋を出ていった。心配って、なにをだ?  僕は分からないフリをしながら、マユに指定された場所で尻《しり》を下ろす。すると間髪《かんぱつ》入れずに、磁石《じしゃく》ごっこでもしているみたいにマユがくっついてきた。 「みーみーみーくん、みーみーくん」 「よしよし」  脳がもう少しで固茹《かたゆ》でになるはず。僕は、看護師さんの唾液《だえき》付きの伝言を思い返した。 「もうすぐ夕食だって」 「うん。わたし、お腹空《なかす》いた」  昼食の時間も眠《ねむ》ってたからね。 「でも、こんなとこのよりまーちゃんの作るご飯の方が美味《おい》しいよね」 「うん、それは勿論《もちろん》だよ」  そろそろ大丈夫《だいじょうぶ》かな。 「今の女の人、知ってるよね?」