ビト ン+長 財布
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null と、稚児《ちご》どもが肴《さかな》までくばって歩いた。三好・松永の兵は、いまでこそ京をおさえているとはいえ、元来は阿波《あわ》の田舎侍である。  酒には意地がきたない。  それぞれの屯《たむ》ろ屯ろで呑《の》みはじめ、夜半をすぎるころには宿直《とのい》でさえ酔い痴《し》れた。 (いまこそ。——)  と、常御殿に詰めている光秀はそう判断し、足音もしめやかに次室から閾《しきい》を踏みこえて覚慶門跡の病床ににじり寄り、 「十兵衛光秀にござりまする」  と、覚慶にはじめて言上し、「おそれながら」と、この貴人の手をとった。 「御覚悟あそばしますよう。ただいまよりこの御所の内から落しまいらせまするゆえ、すべてはこの光秀にお頼りくださりませ」 「心得た」  と、覚慶はうなずいたが、さすが、おそろしいのか、歯の根があわぬ様子である。光秀は覚慶の手をとった。  掌がやわらかい。  外は、風である。  覚慶、求政、光秀の三人は、茶室の庭から垣根をこえ、這《は》うようにして乾門《いぬいもん》のわきの築《つい》地《じ》塀の下まで接近し、そこであたりの人の気配をうかがった。光秀は、地に耳をつけた。 (酔いくらって、寝ている)  思うなり、光秀は身をおこした。身がかるい。  ひらり、  と、塀の上に飛びあがった。やがて手をのばして覚慶、求政という順で塀の上にひきあげ、つぎつぎと路上にとびおりた。  月は、ない。