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ヴィトン長財布新作2013編集

「さようですか。あたしはラジコン操作の模型モーター・ボートのマニアでして、夏は休みの日にいつも多摩川に行ってます……承知いたしました。それでは、あちらでごゆっくりと……」  職人は応接室を示した。  素早く自分の服を着けた朝倉は、応接室のソファに腰を降ろした。卓子にはコーヒーが湯気をたてている。  テレビの画面では、ハイ・ティーンの歌手たちが動物園の|猿《さる》のように跳ねまわっていた。腕時計を|覗《のぞ》いて七時を少し過ぎた時刻であることを知った朝倉は、NHKにダイヤルを廻す。  ニュースは政治家の顔をうつしていた。社会ニュースに移ると、拡大されてボケた冬木が浮かんだ。  アナウンサーはミリオン・タクシーの運転手冬木が昨夜|誰《だれ》かに連れ去られたまま消息を絶っていること……冬木が、共立銀行大手町支店の現金運搬人を殺して千八百万円を奪った犯人らしい者の目撃者であり、今度冬木を襲った犯人と共立銀行事件の犯人は同一人物らしいこと……捜査本部は冬木のタクシーに無線の発信器をつけておいたが、残念ながら、犯人の声を聴くことも録音することも出来なかったこと、などを伝えた。  そして、今朝二時過ぎ以降に冬木の姿を見かけた方がいれば、すぐに|最《も》|寄《よ》りの交番なり警察署に連絡をとってくれるようにと、聴視者に呼びかけていた。  ニュースは別のものに移った。テレビのヴォリュームを小さくした朝倉は、ソファに戻ると思いきり背のびをした。  セドリックの車の外で冬木と争ったときの自分の声が、捜査側に聞かれていないというのが本当なら、悪夢に悩まされずに眠れそうだ。何かの|罠《わな》かとも考えられるが、罠ではないと朝倉は思う。あのとき、自分が口にした言葉は短く、その上に|圧《お》し殺したような低い声だったのだ。それにエンジンの音も、自分の声を|潰《つぶ》すのに有効だったに違いない……。朝倉は卓子のコーヒーを一気に半分ほど飲み、マガジン・ラックに手をのばした。口笛でも吹きたいような気分であった。マガジン・ラックには、一般の雑誌が五、六冊と、あとは男性のファッションを主にした本と自動車の月刊誌があった。朝倉は最新号の“モーター・アンド・カー”誌を手にしてページをめくる。  マニア向きのチューン・アップ・ガイドと外国スポーツ・カーのロード・テストを売り物にしている雑誌であった。だが、朝倉のページをめくる手は巻末に近い愛読者の“愛車周旋会”というところでとまった。  その欄は——売りたし……買いたし……交換したし……貸したし……借りたしなどと分かれ、|貰《もら》いたし、と言う強心臓者のための項もあって十ページほどが費されていた。掲載料は無料なので、雑誌社の読者のためのサービスだ。  朝倉は、貸したし、の項に視線を落とした。「わ」のナンバーで一目でそれと分かってしまうドライヴ・クラブの車を借りなくても、エンジン|鍵《キー》をつけて車を運転出来るのだ。  朝倉は、貸したし、の項から我慢出来そうな車と持ち主の住所と電話を手帳に書きぬいた。三つほどあった。  ドアを開いて売り場に出ると、先ほどの店員が揉み手して近づいてきた。 「何か御用でも……」 「用を思いだした。ちょっと外に出てくる」  朝倉は言った。
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